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レポート診断

……です。

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 「良いレポート」についてはこれまでの各節を参照していただくとして、ここでは「おしい」から「落第」「失格」の類型を。

 A もっとよくなる答案

類型 A-1 「感想文」的

 大略、次のような筋書きになっていませんか。かなり多く見られる類型です。

 ラベリングに関する授業を聞いて、やはりこれは問題だとわかった。要約すると△△……△△ということである。克服はなかなか難しいだろうけれど、悲しい現実だと思う。少しずつでも努力しなければならない。

 『現代家族の構造と変容』という本を読んでみた。その本には、要約すると、△△……△△と書いてあった。あまり考えてこなかったことなので、興味深かった。自分の将来のことでもあるので、今後もしっかり考え続けたい。

 このような場合、要約部分△△……△△が安易に流れず「とても丁寧」ならば(ただし後述の「一部転載」ではなく丁寧な要約)、不合格にはなりません(していません)。むしろそこは「言及」について積極的な加点の対象となります。しかし、それ以上の成績(論理点や個性点の加点)はさしあげられない、という残念なケースになります。

 このような類型のレポートの弱点は次のようになります。

  • 結論が反対のありえないアタリマエであること(「家族のことなど考える必要はない」「問題があってうれしい現実だ」等と言う人はいない)。
  • 結論が自分の心構えであること(もちろん大切なことだが、ex.医学レポートの結論が「健康に気をつけて生きてゆきたい」では……?)。

 つまり、せっかく授業を聞いたり本を読んでみたりしているのに、結論が何の検討もなく書けるものになってしまっているのです。

 見解とは「調べた結果、述べ得ること」。「言いたいこと」ではない。

 次のことをチェックしてみましょう。

  • 選んだ本は、どんな「ディスカッション」をしていただろう。
  • 結論ではなく、問題の立て方や、論理のすすめ方に注目してみるとどうか。
  • 応用すると自分にもこんな考察ができるようになった、といった点はないか。
  • 他の著作にも同じことが書かれていたか。ちがうとしたら、どこがちがったか。

 これらの点に着目すれば、あなたの内部にも議論が誘発されるはず。論の運びや結論が一味ちがってくれば、ベストな答案に近づくでしょう。

類型 A-2 確かに調べてみたけれど

 次に多いのはこの類型です。大略、次のようなレポートになっていませんか。

 授業では「役割距離」の概念が紹介され、事例データも示された。そこで自分でも本を見てみた。確かに、そこには確かに「○○」といった例がある。考えてみるべき問題だと改めて思った。

 確かに調べているんですが、そしてそこは積極的な言及点加点の対象なのですが、やはりそれ以上には……要するに、「授業で紹介された話は実在する」ということだけ、ですよね? 

 次のことをチェック。

  • 授業ではどんな「」を紹介したか。
  • データは何を「意味」していたか。
  • 選んだ本はこのデータをどう「分析」「解釈」していたか。

 「もっと詳しく調べた」とか「実は紹介された話より複雑なことらしい」といったことがあればベストに近づくでしょう(論理点・個性点ともにプラス)。

類型 A-3 結果的な写し(?)

 こんな文面になっていませんか。「ホネのある本を読まねば」と思って本を選んだ「意欲派」に多くなってしまうものだと思います。

 Ch.H.クーリーのいわゆる第一次集団は、同時代のF.テンニースによるゲゼルシャフトとゲマインシャフトの分類でいえばゲマインシャフトに相当し、両者ともに初期の社会化のメカニズムをこの有機体のなかに見いだしているのが共通である。しかしながら、テンニースに見られる有機体説と契約説との総合という視点がクーリーにあったとは言い難い。むしろ社会有機体の観点から契約社会における腐敗の問題を……

 グローバリゼーションがすすむ今日の資本主義経済下における社会構造の転換は人々の価値意識や態度にも変容をきたしつつあるが、ポスト構造主義の問題提起はこれと関連させるとき重要な意義を帯びるであろう。すなわち、一方における差異の多文化主義的な承認という課題と他方で進展せざるをえない普遍主義的価値とのあいだの葛藤および緊張のなかで惹起されるナショナルな感情が……

 意欲的な挑戦である場合、むやみに減点はしないようにしていますが、しかし、文面があまりにも「丸写し的」だと、意味を考えることなく受け売りしたものではないか、と思われなくもありません。
 「本当に自分の力で書いたのに!」という方は、

吟味・咀嚼・とらえなおし」をしたことがわかる表現にすればベストに近づくでしょう。

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 B ほぼ必ず不合格になるレポート

 著作権法違反、雑、一人よがり……これらの理由でレポートが不合格になった場合、平常点が良くても回復は難しいとお考えください。

類型 B-1 ネットでコピペ

 内容には関係なく、また、平常点にもかかわりなく、不合格にせざるを得ません。意図的であろうと非意図的であろうと、変わりありません。あなたは他者の著作の写しで大学の単位を得ようとしたのです。盗作。著作権法違反。

 複数の記事を「工夫して組み合わせた」? うーん、それは巧妙な盗作、いっそう悪い行為になってしまいます。
 (おわりに数行程度の「感想」を書いてあっても同様)。

 単に「そうだとは知らず」「調べるとはそういうことだと思いこんで」、そうしてしまっている場合が非常に多いので、気を付けてください。「知らなかった」では済まされないことなのです。

 言及のルールを知っておけば、こんな過ちをおかさずに済んだでしょう。

類型 B-2 本や論文の「部分転載」

 内容によらず、また、平常点にもかかわりなく、合格点は難しい。

 [問題の確認やとらえなおしもないまま]「著者は…………[ずっと、 吟味も咀嚼もない写し]……………と書いている。これが日本社会の課題と考えられる」。

 これは類型1と同じ。本や論文が複数であろうと、同じ。おわりに数行程度の感想を書いてあっても同様。

 言及のルールを知っておけば、こんな過ちをおかさずに済んだでしょう。

類型 B-3 殴り書き・乱文、乱雑

 「あってはいけないこととはいえ、誰にも時折ありうる」といった程度のミスタイプ等は、問題視していません。が、「あまりにも」、
  誤字だらけ。
  主述の乱れだらけ。
  乱雑な文字。
  書式の混乱や不統一……

 やたらと落第にはしないつもりですが、中身も乱雑であることが多いのですよね……

類型 B-4 言及がまったくない

 「レポート」というものの範疇外です。

 「社会とは私が思うに……と考えられる」。

 天文学のレポートで「私の宇宙観」を書いても零点になるのと同様に「社会とは結局○○だと思うのだ」といった随想をどんなに書きつらねても、レポートにはなりません。内容によらず。
 もちろん「そも社会とは……」といった議論が社会的におこなわれていることもあります。ならばそのような議論に言及してください。

 レポートとはどういうものかを知っておけば、こんな誤りはおかさずに済んだでしょう。

類型 B-5 あまりにも根本的な誤解・無理解

 意見の違いによって減点するなどということはありませんが、授業の趣旨を根本からまちがって受け止めている場合は、大幅減点となります。

 家族社会学について授業があったが不愉快だった。私にとってどんな家族がよいかは私が決めるもので、授業で習うようなものではないと考えるからだ。

 そんな話、しましたっけ? 

 私の知っている学校はこんなところではありません。この本に書いてあることは嘘なのではないでしょうか。

 あなたの経験してないことがらは存在していない……の?

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 C 大幅減点~不合格のレポート

 雑な写し、大まかすぎ、出典不明、テーマ外、議論の無視、あまりにも淡泊……などは大幅減点となります。

類型 C-1 ノートの「雑な要約」「丸写し」

 ノートがよく咀嚼できていれば評価しますが、しかしそれ以外に「調べた」形跡がなければ、言及点の大幅減は免れません。

類型 C-2 大まかすぎ

 文献や資料を参照してはいるが、その引用や要約が大まかすぎ、読んでないに等しい。

 「『現代日本とエスニシティ』(鈴木 2003)によれば、ニューカマーと呼ばれる新移民が近頃話題になっているという。このことから私が思うに……」といった程度の参照。

 大里によれば「教育の階層消費」が進展し、格差が拡大している(大里 2002)。中里によれば、これには「ジェンダー・ギャップ」が大きく介在している(中里 2004)。小里によれば、ジェンダーとは文化的につくられた性差、とりわけ性別役割分業のことを言う(小里 2006)。そして里中によれば、性別役割分業の慣行は、バブル崩壊後の今日においていっそう顕著になってきている(里中 1999)。以上、本レポートは今日の教育格差におけるジェンダーの問題を経済状況と関連させて明らかにした。

 読んでないに等しい。つまり、

  • 販売用の帯さえ読めば書けるような言及。
  • どの本を読んでも同じである程度の基礎的用語だけの言及。
  • 結論的命題だけの借用。

ということです。 言及点の大幅減となります。

 言及のルールを知っておけば、こんな過ちをおかさずに済んだでしょう。

類型 C-3 参考にしていない

 文献や資料を参照してはいるが、ちっとも参考・検討対象にしていない。

「『学校文化の社会学』という本を読んだ。確かに学校にも問題はありそうだ。しかし、私の考えではもっと問題なのは家庭である。そもそも私が考えるに親がしっかりすることが子どもにとって……」等

 読んでいないに等しい。

論述とは、検討の結果として言えることを述べること。言いたいことを言うことではない。

 言及点が減のほか、論旨が通っていないので論理点の大幅減となります。

 言及のルールを知っておけば、こんな過ちをおかさずに済んだでしょう。

類型 C-4 出典不明

 出典がどこにも掲げられていない場合。なにか調べて書いてはいるようなのだが書いていない、も同様。言及点が大幅減となります。

類型 C-5 テーマ外

 よくできていればやたらと不合格にはしませんが、

 授業で家族の問題がとりあげられたので、このレポートでは『家族の精神病理』をとりあげたいと思う。

 社会科学の分類法を参考にしてください。一例に、家族にかんする法律について論じられても、それは社会学ではなく法律学であるのと、同じなのです。

 授業で「わかりやすい連想で言えば」といった意味で引き合いに出したなんらかの出来事・事件・事故・作品などについて(たとえば『サザエさん』 の家族構成について)、授業の内容と関係なく評論している、といった例もこれに準じます(随想や評論を見下しているのではありません。「趣旨がちがう」のです)。

類型 C-6 議論の無視

 講義でたとえば核家族については議論があるという話を紹介したのに、なんの考慮も根拠もないまま

 やはり私は核家族がよい(または悪い)と信じている。

 言及点・論理点がかなり大きな減です。

類型 C-7 あまりに淡泊

 たとえば、プリントアウト1枚程度の分量で、

 授業では自己の社会的形成という理論を学んだ。[その趣旨の確認や内容の要約があるわけでもなく]。しかし生まれ持った性質という要因もあるだろう。[という指摘の理由や何らかの知見について述べられるわけでもなく]。どちらも大切なのではないだろうか。[で、おしまい]。

 日本は食糧自給率が低い。[2~3クリックレベルで取得可能なグラフか何かの掲示があって]、やはりこれでは不安だ。向上のための努力が求められる。地産地消が大事だろう。

  •  とくに咀嚼や積極的な調査を試みたあともなく
  •  工夫や深い理解があるわけでもなく
  •  授業内容や資料を単純化だけしていて
  •  既に知っていたことをなぞっただけ
  •  一言レベルの単純な考察があるだけ

 かりに、その結論が「正しい」としても、論理点がほぼ0点になります。

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 D 失格

 次は採点以前の問題。

類型 D-1 禁句

 「単位ください」

 すなわち「個人的にお願いしたら合格できるという疑惑を招きたくなければ不合格にしてください」という意味に受け止めます。絶対に書かないでください。

 「奨学金の問題があるのでCなら落としてください」

 他意はないと思うのですが、こう書いた人だけ希望通りDにするわけにはゆかないし、さりとてAにしてあげるわけにもゆかない。「採点不能」と判定するしかありません。

 私的事情の申し立てはたいてい同様です。たとえば、

 「生活が苦しく準備時間が不足したため不十分な内容であるがどうしても単位が必要な事情があり」等

 他にも同じ条件の人がいたかもしれません。こう書かれたとしても考慮はできません。上と同様、「個人的にお願いしたら合格できるという疑惑を招きたくなければ不合格にしてください」と受け取ります。

 ただし一般常識として「やむをえない」場合、あるいは恒常的な出席が困難な場合については、ご連絡ください。

 類型 D-2 非常識な受講

 受講態度があまりに悪いと、レポートの出来いかんにかかわらず不合格にする(つまり履修を認めない)場合があります。それは「出来の良し悪し」以前の、社会常識の問題です。

  • 平常点が0点
  • ミニットペーパーがいつも投げやり
  • 遅刻・中途退出の常習
  • 頻繁なる居眠りや発声
  • 授業中、なにもしていない。
  • またはいわゆる「内職」など、他の作業をしている。
  • とりつくろうためだけに「出席」している。

 誰にも中心的な課題と周辺的な課題とがあり ます。すべての授業に全力投球など、誰にもできないでしょう。それは人間として当然のことです。しかし、「有限ながらも誠実にとりくんだ」場合と「テキトーに取り繕おうとしているだけ」の場合とは、峻別されるべきでしょう。.

 類型 D-3 不正

 酷似した答案が複数ある場合には、これと見なします。

 ミニットペーパーの不正もこれに含めます。

 もちろん、単位は認められません。

 類型 D-4 暴言

 必然性のない下品な表現、威圧的・暴力的・侮蔑的な表現、あまりにも無見識な偏見などを含むレポートは、理性の府の本分にもとると考え、失格とします。

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