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言及のルール 初級編

……です。

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重点

 「~によれば」: 自分の言葉と他人の言葉を区別すること

 言及と盗用: ちがいを知っておくこと

 書誌情報: 原典の掲げ方を知ること

 社会常識でもあるので重視します。要点をしっかり身につけておきましょう。形式は分野によりいろいろですが。

言及の三原則

 言及(reference)とは、他者の言葉を引用したり要約したりして、そのうえで自分の見解を示すことです。

 言及のおりには、次の原則を守らねばなりません。

  1. 明確な規則で自分の言葉と他人の言葉を区別できている。
  2. 引用・要約の必然性がある。
  3. 報告している側に主体性がある。

 これは学術レポートのみならず、ビジネス・公務・市民活動、その他あらゆる社会生活の基本ルールでもあります。
 ルール違反は、悪くすると剽窃(文章の盗用)、あるいは著作権法違反となります。これは違法行為になってしまいます(単位レポートとしても失格)。

 具体的には、次のようなことになります。

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自分の言葉と他人の言葉: 引用と要約

 引用や要約には、形式上の規則や慣習があります。およそ以下のように。
 はじめは「ルールだらけで面倒だな」と感じるかもしれません。しかし、慣れればむしろ「論を立てるための手段」として重宝するはずです。

*たとえば、映画について、具体的な作品を挙げず、他者の意見を参考にもせずに、自分の見解を述べるのは、非常に困難でしょう。そうではなく、具体的な映画作品を掲げたり、それについての他者の論評を引いたりすれば、自分の映画観も表現しやすいでしょう。ルールを知っていれば、それがやりやすいのです。

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1.~によれば

 「誰が~と述べている」「~によれば」「~に従えば」 といった「出典を示す」表現を使ってください。たとえば次のように。

  1. 「社会研究機構の指摘によれば、△△という事実がある」。
  2. 「資料1として添付した記事を、新聞で目にした」。
  3. 「敗戦直後の状況について、私の祖母は次のように述懐した」。
  4. 「精神科医である町田は、著書『心の科学』で、こう述べている。すなわち……」。
  5. 「青葉区博物館の展示資料に従えば、この仏像は……」。

 こうした「~によれば」「~に従えば」という表現をとっていないのに文末に「参考文献」が掲げられているレポートを非常にしばしば見かけます。それは適切な言及とは言えません。当人の言葉と他人の言葉とが識別できないからです。

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2.引用の「 」

 他人の言葉を引用するときには「 」に入れます。

 この「 」は「原典のそのまま」の意。「 」の内部は一字一句原典とちがっていてはなりません。たとえば次のように。

 美土路は、『学問の作法 第2版』の96頁で、「検討もせず引き写すこと」と「検討した結果として肯定的に引用すること」とを「混同してはならない」と述べている。

一段落を「まるごと書き写す」のではありません。

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3.要約を示す表現

 大意を要約するときには、自分の責任において要約したことがわかる表現をとらなければなりません。たとえば次のように。

 美土路は、『学問の作法 第2版』の第4章で、およそ次のように述べている。すなわち、他者の言葉をそのまま引用しても、検討しないで引き写したのではなく、批判的に吟味したうえでのことならば、それは盗用にあたらない、と。

 このときに「 」を使ってしまうと、自分に責任のある文言なのか、原典通りなのか、わからなくなってしまうので、この場合には「 」を用いません。

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言及の必然性

 たとえば先の文章。

 美土路は、『学問の作法 第2版』の96頁で、「検討もせず引き写すこと」と「検討した結果として肯定的に引用すること」とを「混同してはならない」と述べている。

 「これでレポートおしまい、以上」だったら、これはやはり問題です。原則1は守れているように見えても、そもそも自分の文がないので、区別もなにも、つまり埒外。原則2や3も同様です。換言すれば、これではやはり「自分の作品」とは言えないのです

*練習課題として、書物や論文を「要約」しなさい、といった課題が出ることはありますが、それはまたここでいうレポートとは別。

 そうではなく、次の文を見てみましょう。

 美土路は、研究倫理に関して重要な論述を数多くおこなっている代表的な論者である。その著のひとつ、『学問の作法 第2版』の96頁で、彼はこう述べている。すなわち、「他者の文言を検討もせず引き写すことと、他者の見解や結論について検討した結果として肯定的に引用することとを、混同してはならない」と。
 つまり、何の検討もしないでただ引いたのと、「検討」したうえで引用するのとでは、意味が異なるというのである。次にはこれについてさらに考えてみよう。

 最初に、これから引用する資料はここで論じていることにとって重要だ、という書き手の判断や評価を示しています。つまり、この資料についての大まかな案内なり紹介があり、言及する理由がわかる。 それが、引用の必要・必然性です。

*実際には、「たまたま」目についた資料を用いることも、ありえることではあります。しかし、それをもとにして論を立てるとすれば、どうでもいい資料ではありえないでしょう。意味づけなくてはなりません。その意味づけを書きます。つまり、ここでいう「理由」とは、選んだ時の動機や経過ではなく、論理的な理由です。

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書き手の側の主体性

 上の例文ではまた、引用後に「つまり」とか「次に」のように、自分なりの解釈や展開が続いています。つまり、資料を使って、さらに自分で何かを論証したり考察したり、しようとしている。これが書き手の主体性です。

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注意: よくある誤解

 量の問題ではない

 世間では「引用の割合が○%以下なら盗用にあたらない」式の誤解がひろがっています。そうではありません。引用量の問題ではないのです。

 たとえ少量、かりに一文であったとしても、この原則を踏み外したら、それは盗用です。逆に、どんなにたくさん引用しても、上の作法をキチンと守っていれば、盗作にはあたりませんし、著作権法違反に問われることもありません。むしろそれは「手堅い」のです

*これは学術や評論の場合のルール。音楽や小説など、芸術作品の場合は、その途中にいちいち「引用」などと断りませんから、これより厳しくなっています。

 意見の異同の問題ではない

 他者の意見と自分の意見が同じかどうか、という問題でもありません。

 検討の結果、他者と結論が一致する、ということは、当然、ありえます。しかしそれはもはや単にマネしたわけではありません。「吟味した結果、一致した」ないし「他者の説を追試した」ことになるのです。それは十分、自分の作品と言って良いのです。

 また、「自分の見解をよく表現してくれている他者の言」を引用しても、上記の諸原則が守れているならば、これも盗作にはあたりません。そのような他者の言を探し、選び、紹介するということが、書き手の主体的な営みだからです。

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文献や資料のリスト

 上のことができたら、レポートの末尾に、次のような言及資料一覧を付けてください(すべて架空です)。これも基本ルールの一つです。

  1. 社会研究機構2004「今日の階層構造の特徴と変動」『現代社会分析』(現代社会学会)2004年8月号458-515頁
  2. 『毎朝新聞』、2004年8月5日付。
  3. 筆者が2004年6月7日にインタビューした。
  4. 町田貴2004『心の科学』中学館
  5. 青葉区博物館、『展示アラカルト』、非売品(入館者向け案内パンフレット)。

 書誌情報の書き方

 例のうち、1や4のような、本や論文についての記載事項を、書誌情報といいます。書き方は次のようになります。

  • 1の場合 著者、発表年、「論文名」、『掲載誌名』(発行者)、巻号数: 掲載頁。
  • 4の場合 著者、発表年、『書名』、出版社。

  この場合、『 』と「 」の使い分けは次のようになります。

  • 『どろろ』、『老人の科学』、『毎朝新聞』 …… 書物、雑誌、定期刊行物の名前。
  • 「どろろ」、「ゲートボールのコツ」、「大臣また失言」 …… 作品、論文、記事の名。

 これらの表記法については、分野によってずいぶん違いもありますから、ご自身の専門分野の慣習に注意してください。

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ウェブページからの引用

 資料は、どんな媒体であるかを問いません。従ってウェブページも、書物や論文、インタビュー記録や文書資料などと、基本的に同様の扱いとなります。つまり、引用の際には言及のルールを守り、出典(作成者「サイト名」url閲覧年月日)を明記する、ということです。

 匿名サイトは論外

 ただし、したがって、匿名サイトからの引用は「出典」になりません。フリー百科のたぐいも同様。参考のために見るのはかまいませんが、典拠として用いることはできません。

 レポートでは、専門家や研究組織、公式団体や官公庁などの実名入りの公式サイトの参照のみ、認めます。

 安易なコピー&ペーストは禁物

 ただし、これにしても、引用や要約のルールに従わねばなりません。図表とかデータ、特徴ある文言などについて、引用者に責任のある文章の流れのなかで「引用」したり「要約」したりするのが原則。
 したがって、たとえば一段落まるごと「コピー&ペースト」では、本の丸写しと同じですから、適切な言及とは言えません(一段落を長く引用する場合もあるが、それには特別な形式が必要)。

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